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受賞者 |
受賞理由 |
国際賞 |
アン・W・タッカー
(米国) |
米国テキサス州ヒューストン美術館を拠点に精力的な活躍をするアン・タッカー女史は、全米の写真キュレーターの代表的人物として知られているが、一昨年、丹念な現地調査を経て「日本写真史展」(ヒューストン美術館、後にフィラデルフィアに巡回)を実施し、大きな話題となった。アジア圏では唯一、世界の写真史と歩みを共にしてきた日本の写真史の豊かな果実を西欧社会に紹介し、その図録が欧文資料として刊行された意義はきわめて重大である。
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功労賞 |
東松 照明
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戦後の占領時代からアメリカナイゼーションの現実をきびしく見つめる一方、「NAGASAKI」「日本」「太陽の鉛筆」、そして沖縄の現実を直視してきた<世界の中の日本>の視座は従来の時空間意識を超えるシンボリックな表現とあいまって戦後のわが国の写真の新しい動向の上に多大な影響を与えた。さらに、昨今では米国・ヨーロッパ各地で写真展「Skin
of the Nation」を開催して世界の写真界の注目をあびている。
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奈良原 一高 |
大学院生時代に「人間の土地」でデビュー以来、初期代表作「ヨーロッパ・静止した時間」で多くのファンを獲得し、以後たゆまなく鮮烈で斬新な作品群を産んできた奈良原一高は、世界という現実を背景に、美と幻想の迷宮を写真映像で構築したユニークな創造者である。ことに後進への影響は大きく、刺激を受けた写真家の多さは、これからも我が国の写真界の豊かな展開と充実に大きく寄与し続けるであろう。
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文化振興賞 |
ドキュメンタリーフォト
フェスティバル宮崎 |
混迷が続く政界情勢を意識すると、IT化社会とはいえ、いまなおフォトジャーナリズムの使命は大きいが、その根幹となるドキュメンタリー写真の重要性とそこで扱われるヒューマニズムを軸とした写真祭で、南国の小都市宮崎発ながら、広く世界に通じるメッセージを発信してきた。ことに日本とアジアの写真家とその活動に着目し、ドキュメンタリー写真の説得力や必要性を過去5年に渡り強くアピールしてきた。
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年度賞 |
今森 光彦 |
『湖辺・生命の水系』『藍い宇宙』NHKテレビ放映「命めぐる水辺」 長い歳月を一貫して自然の中の人と生きものとの「共生」の根源の在り様を問いかけ、描きづづけ、さらに上記の著作や放映を通じて自然写真の画期の達成をなしとげた表現に対して。
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小松 健一 |
『ヒマラヤ古寺巡礼』 15年にわたってネパール・ヒマラヤに通いつづけ、100を超える寺院や仏像を撮り収める一方で、厳しい大自然の中で生き抜いていく民衆の敬虔な信仰の在り様を伝統意識を通じて描き上げた大きな現代的な「共生」と「調和」の世界は圧巻であった。わが国のアジア写真の一つの達成ともいうべき深遠な表現に対して
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作家賞 |
木之下 晃 |
多年にわたり一貫した世界のクラシック音楽家たちの演奏を困難な撮影条件の中で撮りつづけてきており、そのライブショットは数万点にのぼるといわれる。世界の音楽的権威の絶大な信頼をかち得た重厚な表現は音楽写真の世界の記念碑的な映像群として高く評価されており、その卓越した表現活動に対して。
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坂田 栄一郎 |
世界各国の著名人の風貌と、それぞれの人物の精神や人格を象徴する写真映像と併せて展示した写真展「PIERCING THE SKY
−天を射る」は、モデルとなった人々の個々の魅力を絶妙なニュアンスで表現し、後に刊行された写真集ともども大きな反響を呼んだ。長年に渡る雑誌『アエラ』の表紙写真など、幅広くかつ鋭く人物観察に徹してきた坂田栄一郎は、写真を手段として世界の現代思想を写真映像化できる貴重な写真家である。
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新人賞 |
梶井 照陰 |
大自然はその美しさで人間の心を魅了する一方、同時に大きな脅威でもある。佐渡に住む若き密教僧侶梶井照陰の写真集『NAMI』(波)は、その自然の美しさと底知れぬ謎めいた恐ろしさを、ひたすら海面の波の写真で表現した稀有な作品である。遠目に波濤を眺めるのではなく、波頭が襲いかかってくるかのような臨場感溢れるダイナミックかつ繊細な波のパノラマ写真はどれも圧巻で、美意識や恐怖心が融合した異次元へといざなう力を秘めている。
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勝又 邦彦 |
ふだんからひとの目に映っているのに意識されない何かや、見えていないのに、ふと知覚の片隅に現像するような光景を、写真作品として自立させようとする写真家が勝又邦彦だ。近作の「Skyline」では、都市空間が大空と接する輪郭スカイラインを描き、前作の「Unknown
Fire」では、神話やお伽話を思わせる不意に出現した謎の火を表現した。写真というステージで人間の知覚を探究する、逞しいクリエーターである。
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森澤 ケン |
写真展「TOKYO OUT OF DATE」写真展「PURSUER」
変貌していくマンモス東京の現在形を置き捨てられた野草しげる電鉄レールの残骸群を凝視する視座で見事に形象化し、一方では水中撮影で競泳する肉体の躍動感をクローズアップするなど、いかにも新人賞にふさわしいユニークでエネルギッシュな覇気あふれる表現に対して。
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特別賞 |
谷 忠昭 |
写真の科学と技術の研究開発と普及において画期のリーダーシップを発揮し、世界の第一人者としての研究業績を高く評価された。また、国際画像科学委員会や日本写真学会の会長としても、多くの国際会議を成功裡に収め、国際交流の上にも多大な貢献を果たした。内外の後進の指導にも積極的に携わり、優れた著作は米国や中国など世界各国で出版され、写真の学術文化の分野においても国際的な貢献度はきわめて高いものがある。
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